歯科のエッチングの目的と用途
保存修復学専門用語集第3版によると、エッチングは以下の行為を指します。
35〜40%程度のリン酸水溶液などを30秒程度歯面に作用させ、水洗する。
エッチングの目的・用途は、歯質と修復物の接着性の向上です。用途としては、歯面はもちろん、金属やセラミックスにも使用されます。
接着性が向上する理由は以下の通り。
- 表面構造の変化
- 表面自由エネルギーの上昇
- 表面の汚染物質の除去
それぞれを詳しく見ていきましょう。
歯科のエッチングによる表面構造の変化
エナメル質は主に、エナメル小柱とエナメル小柱間の小柱間質からなります。エッチング材が作用すると、エナメル小柱と小柱間質の脱灰の差が生じ、レジン浸透に有利な微細凹凸構造が形成されます。
凹凸構造にはレジンが侵入し、レジンタグが形成されることで機械的嵌合力を発揮します。
L M Silverstoneは、エナメル小柱が優先して脱灰されるパターンをType 1、小柱間質が優先して脱灰されるパターンをType 2、Type 1とType 2が混合しているものを Type 3として分類しました。
象牙質では、エッチング材により無機成分が脱灰し、残存したコラーゲン線維は、象牙質表面にコラーゲン線維網を形成します。深部の象牙細管も脱灰し、細管開口部が広くなります。
脱灰後の象牙質表面のSEM像については、State of the art etch-and-rinse adhesivesのFigure 2.をご覧ください。
歯科のエッチングによる表面自由エネルギーの上昇
エッチング材の作用により、歯質表面の化学的な状態が変化し、表面自由エネルギーが上昇します。表面自由エネルギーが上昇するということは、一般に他の物質と相互作用しやすく、ぬれやすく、接着しやすい状態になることを意味します。
さらに前述した、表面構造の変化による微小凹凸構造の出現によっても、ぬれ性は向上します。
つまり、エッチングによって表面自由エネルギーが上昇し、微小な凹凸構造が付与されることで、ボンディング材などとのぬれ性が向上するということです。
歯科のエッチングによる表面の汚染物質の除去
エッチングには、歯面の接着阻害因子を減らす働きがあります。ここでいう接着阻害因子には、エナメル質表面のペリクルや汚染物(唾液・血液・プラーク由来成分など)に加え、象牙質切削後に形成されるスメア層・スメアプラグ(切削由来のデブリ)も含まれます。
エナメル質では、表面付着物が除去されることで歯質表面が露出し、さらにリン酸エッチングにより表層が脱灰されて微細凹凸が形成されます。前述したように、これにより歯質とボンディング材のぬれ性が向上しし、レジンの浸透と機械的嵌合の形成に有利に働きます。
象牙質では、スメア層およびスメアプラグの処理が重要です。エッチアンドリンス法では、リン酸がスメア層やスメアプラグの無機成分を脱灰・溶解し、その後の水洗によって残渣を物理的に除去します。
エッチングは無機成分に対して特に強く作用します。有機物や細菌に対しては、低pHによる傷害や、足場となる無機成分の脱灰による汚染物質の付着力低下は期待できますが、酸処理のみで完全に除去できるとは限りません。
本邦で主流のセルフエッチングシステムでは酸性機能性モノマーによるエッチングの後には、水洗は行われません。そのためセルフエッチングシステムにおいては、有機物の取り扱いには特に注意が必要です。
接着前処理における「汚染物質の除去」の基本は、歯周病学のプラークコントロールや有床義歯補綴学のデンチャープラーク管理と同様に、機械的除去です。感染象牙質の適切な除去に加え、エアフローなどによる機械的な清掃を行うことが重要です。
歯科におけるエッチングシステムの分類
エッチングシステムは以下の3つに分けられます。
- トータルエッチングシステム・エッチアンドリンスシステム
- セレクティブエッチング
- セルフエッチングシステム
これらのシステムについて、それぞれを見ていきましょう。
トータルエッチングシステム・エッチアンドリンスシステム
保存修復学専門用語集第3版によると、「トータルエッチングシステム」と「エッチアンドリンスシステム」は同義語とされています。
定義は以下の通り。
エナメル質と象牙質に対して、30〜40%リン酸を用いてエッチングを行い、その後、水洗をするシステム。
後述する「セレクティブエッチング」との違いは、エナメル質と象牙質に同じエッチング材(30〜40%リン酸)を用いて、同時にエッチングするということです。
セレクティブエッチング
保存修復学専門用語集第3版によると、セレクティブエッチングの定義は以下の通り。
コンポジットレジン修復の前処理として、エナメル質と象牙質にそれぞれ異なるエッチング処理をすること。(中略)一般的にはエナメル質をリン酸で、水洗・乾燥後に窩洞全体をセルフエッチングプライマーでエッチングする。
セレクティブエッチングというと、象牙質にはエッチングをしないようなイメージがありますが、それは誤りです。一般的にはエナメル質には強い酸を、象牙質には弱い酸を作用させ、エナメル質と象牙質とでエッチングの種類を変えるということです。
一般的には、エナメル質は35%程度のリン酸を作用させ、水洗します。その後、セルフエッチングシステムに含まれる酸性機能性モノマーによって、象牙質をエッチングします。セルフエッチングシステムは水洗不要なので、象牙質エッチング後には水洗は不要です。
詳しくは後述の「セルフエッチングシステム」をご覧ください。
セルフエッチングシステム
保存修復学専門用語集第3版によると、セルフエッチングシステムの定義は以下の通り。
処理液自体に脱灰能を具備するレジン接着システムの総称。
「トータルエッチングシステム・エッチアンドリンスシステム」および「セレクティブエッチング」との大きな違いは、セルフエッチングシステムでは水洗が不要な点と酸性の機能性モノマーを用いる点です。
セルフエッチングシステムでは、プライマーなどに酸性機能性モノマーが含有されており、その酸性機能性モノマーが歯質をエッチングします。代表的なセルフエッチングシステムにおける、エッチング作用を示す成分は以下の通りです。
- 10-MDP
- 4-META/MET
- 4-AETA/AET
- HEMA-P
- GPDM
- PENTA
- phosphonic acid monomer
1ステップの接着システムでは、エッチング・プライミング・ボンディングが一つの溶液でまかなわれます。2ステップでは、エッチング・プライミングで一つ、ボンディングで一つの計2溶液が用意されます。
歯科のエッチング材の種類と作用時間
歯科用のエッチング材には、エッチング材単独のものと、ボンディング材に酸性モノマーのして含有されているものがあります。
代表的な製品における、エッチング材の成分と作用時間を確認しておきましょう。
エッチング材単独
販売されているエッチング材の多くが、35%〜40%リン酸です。剤形はパスタ状、液状、ゲル状などがあり、おのおのが使いやすい剤形を選ぶとよいでしょう。
以下にエッチング材の代表的な製品と、添付文書上の作用時間を示します。
| 製品 | エッチング材 | 作用時間 |
|---|---|---|
3M™ スコッチボンド™ ユニバーサル エッチャント シリンジ (Solventum) | 35%リン酸 | 15秒 |
| ウルトラエッチJ (ウルトラデントジャパン) | 35%リン酸 | 15秒 |
| エッチャント (ジーシー) | 37%リン酸 | 10~30秒 |
| K エッチャント シリンジ (クラレノリタケデンタル) | 35%リン酸 | 5~10秒 |
| K エッチャントGEL (クラレノリタケデンタル) | 40%リン酸 | 40秒 |
| トクヤマエッチングゲル (トクヤマデンタル) | 39%リン酸 | 30秒 |
論文などからは、「○○秒がベスト」という結論は見つけることができませんでした。短時間でも許容範囲とするものも、ある程度長時間でも有意差がないとするものもあります。
論文のプロトコルや添付文書などを見る限り、15~30秒に設定されていることが多いです。
結論としては、保存修復学専門用語集第3版にも「30秒程度」とありますので、原則としてエッチング剤の添付文書に従い、15~30秒のエッチングを行うとよいのではないでしょうか。
セルフエッチングシステムにおけるエッチング材
セルフエッチングシステムでは、酸性機能性モノマーがエッチング作用を示します。以下に、国内のセルフエッチングシステムボンディング材の代表的な製品と、その機能性モノマーおよび作用時間をまとめました。
| 製品 | エッチング材 | 作用時間 |
|---|---|---|
| クリアフィル® メガボンド®2 (クラレノリタケデンタル) | 10-MDP (リン酸エステル系モノマー) | 20秒 |
| 3M™ スコッチボンド™ ユニバーサル プラス アドヒーシブ (Solventum) | 10-MDP (リン酸エステル系モノマー) | 20秒 |
| G-プレミオ ボンド (ジーシー) | 10-MDP (リン酸エステル系モノマー) 4-MET (カルボン酸系モノマー) | 0〜10秒 |
| トクヤマ ボンドフォースⅡ (トクヤマデンタル) | HEMA-P (リン酸エステル系モノマー) | 10秒 |
| ビューティボンド Xtreme (松風) | ? (リン酸エステル系モノマー) 4-AET系モノマー (カルボン酸系モノマー) | 20秒 |