歯科矯正で歯根吸収が起きたら治療は中止?│歯根が吸収する原因と確率

歯科矯正治療中のリスクとして、「歯根吸収」というキーワードを聞いたことがあるかもしれません。

本記事では、歯科矯正治療中に歯根吸収が生じた場合、矯正治療を中止しなけらばいけないのかについて解説しています。歯科矯正治療中に生じる、歯根吸収の原因や、生じる確率についてもまとめます。

本記事で学べる歯科知識
  • 歯科矯正治療中の歯根吸収の対処法
  • 歯科矯正治療中の歯根吸収の原因
  • 歯科矯正治療中に歯根吸収が発生する確率
目次

「歯科矯正中の歯根吸収」の結論

歯科矯正治療中には、確実に歯根吸収が生じてしまいます。その中でも、歯根吸収が20〜25%におよぶ重度歯根吸収は、3〜4%の歯に生じると考えられています。

軽度の歯根吸収では経過観察を続け、必要に応じて歯科矯正治療を2〜3か月中断します。重度の歯根吸収を認めた場合には、歯根吸収のリスクが低い治療計画への変更も考慮します。

歯科矯正中には歯根吸収が起こることは当然であることから、歯根吸収が生じただけで矯正治療が中止となることはないでしょう。

歯科矯正中に起こる歯根吸収とは?

歯根吸収とは、何らかの原因で歯根が吸収してしまうことを指します。歯科矯正治療と歯根吸収の関連は、1920年代から認識されており、現在では、ほぼすべての矯正患者において何らかの歯根吸収が起こるという考えが確立されています。

歯根吸収が重度に進行してしまうと、天然歯の動揺や喪失につながり、矯正治療が中止となる可能性もあります。

Root resorption associated with orthodontic tooth movement: a systematic review

歯科矯正中に歯根吸収が生じる原因

歯科矯正中の歯根吸収はなぜ起きるのでしょうか?一般的には、矯正力によって歯の周囲に炎症が生じ、活性化した破歯細胞が歯根を吸収してしまうと考えられています。

歯根吸収がより多く出現する可能性があるリスクを列記します。

  • 可撤性矯正装置よりも固定性矯正装置のほうが、歯根が吸収しやすい
  • 顎間ゴムを使用したほうが、歯根が吸収しやすい
  • 弱い矯正力よりも、強い矯正力のほうが、歯根が吸収しやすい
  • 短期間の矯正力よりも、長期間の矯正力のほうが、歯根が吸収しやすい
  • 非抜歯矯正よりも、抜歯矯正のほうが、歯根が吸収しやすい
  • 根尖が尖った歯根のほうが、歯根が吸収しやすい

歯根吸収のリスクと考えられることであっても、統一された見解に至っていないものも多く、今後のさらなる研究が必要といえるでしょう。

歯科矯正中に歯根吸収が起こる確率

インビザラインにおける軽度の歯根吸収(約10%未満)は、全体の約75%で生じ、患者単位では100%生じることがわかっています。インビザラインにおける歯根吸収は、平均約10%です。

重度の歯根吸収は、20〜25%の歯根吸収と定義されることが多いです。重度の歯根吸収は、ワイヤー矯正(エッジワイズ法)とアライナー矯正ともに、約3〜4%で出現するとされています。

Root resorption after Invisalign therapy

Root resorption during orthodontic treatment with Invisalign®: a radiometric study

Factors related to root resorption in edgewise practice

歯科矯正中に歯根吸収が起こったら治療は中止するのか

前述したように、歯科矯正中には歯根吸収が起こることが普通であるため、歯根吸収が生じたことによって矯正治療を中止することは少ないです。

歯科矯正中に歯根吸収が起こった際の対策は、主に3つあります。

  1. 経過観察を続ける
  2. 治療の中断期間を設ける
  3. 治療計画を変更する

歯根吸収が軽度である場合には、経過観察を行うだけで十分なこともあります。

また、歯根吸収を認めた場合に、2〜3か月の治療中断期間を設けることで、歯根の吸収量を抑制できるとするデータが存在します。

重度の歯根吸収を認めた場合には、「歯根吸収が生じる原因」の項で述べたようなハイリスクな治療を避け、歯根吸収が生じにくい治療計画に変更することも考慮します。

Evaluation of root resorption in relation to two orthodontic treatment regimes. A clinical experimental study

Root resorption associated with orthodontic tooth movement: a systematic review.

まとめ

歯科矯正中には、高率で歯根吸収が生じます。歯根吸収のリスクを避けた治療計画の立案や、患者さんへの事前説明が大切です。歯根吸収を認めた場合には経過観察を行い、必要であれば一時的な治療中断も検討します。

Q&A

「歯科矯正中の歯根吸収」に関連する質問を集めました。

歯根吸収するとどうなるの?

軽度の歯根吸収場合、問題となることはまれです。重度の歯根吸収では、歯の動揺を認めることがあります。

矯正中に歯の根っこが吸収されるのはなぜですか?

矯正治療では、歯を動かすために、矯正力を歯に加えます。歯に加えられた矯正力は、歯根周囲に炎症を引き起こし、破歯細胞が活性化してしまうことで、歯根が吸収すると考えられています。

歯根吸収を防ぐには?

歯根吸収を防ぐための方法には、抜歯矯正を避けること、治療期間を短縮すること、強い矯正力を避けることなどがあります。また、歯根吸収を認めた段階で、2〜3か月の治療中断期間を設けることも、歯根吸収の抑制につながります。

歯根吸収があると矯正できない?

歯根吸収があると、必ずしも矯正治療が受けられない訳ではありません。しかし、歯根吸収が生じている歯の移動量を減らすなど、治療計画において配慮が必要になることがあります。

歯根吸収してしまったらどうしたらいいですか?

矯正治療中に歯根吸収を認めた場合、まずは経過観察を行います。歯根の吸収が重度の場合には、数ヶ月の治療中断期間を設け、歯根吸収のリスクを避けた治療計画への変更を考慮します。

歯根吸収は元に戻りますか?

治療の中断により、吸収した歯根は自然治癒することがわかっています。しかし、完全に治癒することは困難であることも多く、今後のさらなる研究が望まれます。

Association of orthodontic force system and root resorption: A systematic review

執筆者

東京都池袋のグランドメゾンデンタルクリニックに勤務する歯科医師

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